「ism」とは「主張」のこと。その人が生きてきた中で感じた人生観や学びを編集長 相田が対談形式でお伺いするコーナー。様々な分野で活躍される方だからこそ多様な考え方を聞くことができます。
沖イズムとは「どの子どもにもその子らしくあり続けられるように、愛情たっぷり笑顔で見守り支えたい。」
今号のテーマでもある「その子らしさ」について、沖壽美代さんにお話を伺いました。
「その子らしさ」とは
その子らしさって2つの視点があるなと思います。まず一つ目が顔とか姿、声など生まれながらに持っている先天的なもの。これは変えようがないですよね。二つ目が成長するにつれてだんだんと身についていくもの。子どもたちは日々吸収しています。その子の周りにある物とか人、場所、生活環境など体験を通して見方や感じ方、考え方など培っていく。それが表現や仕草、その子を表すすべてに現れてくる。つまり、その子の周りをとりまく環境すべてがその子らしさに深く関わっていくのかなと思っています。
「その子らしさ」の見つけ方
幼児の頃のその子らしさは、単純にその子の<好きなこと>から見つけられます。1歳でもその子らしさって出るんですよ。身内の1歳の子どもがクマのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめて、このクマが愛らしくてしょうがないって表情をするの。このような感情はだんだんに育っていくものだけど、1歳でもハッキリと出るのだと驚きました。それって結局はお母さんがその子の好きなものを常にそばに置いてあげる環境にあるからだと思います。
また成長して大きくなってくると、自分ができること・得意なこともその子らしさになるのかなと思います。「ぼく、追いかけられても誰にもつかまらないんだよ!」と走るのが得意だったり、「やっとコマを回せるようになったんだよ!」「なわとびが上手なんだよ!」とできることが増えたりして、その子らしさが出てくる。先生の立場でも子どもの得意や好きを知りたいし、見たいと思っています。
「その子らしくない」ことにも目を向ける
その子らしくも大事だけど、反対に「その子らしくない」「無理させていないか」という見方も大事なことだと思います。本人がいやがることを無理やりさせてしまうと、その子の心に不満が積み重なっていき、ゆくゆくはその子自身の成長を阻むことにつながっていきます。無理してるなと思うところは親がしっかりと見て避けてあげたり、上手に乗り越えられるような状況をつくってあげること。無理をさせすぎないことは、その子らしさにも関わってくると思います。
子どもが「イヤ!イヤ!」となっても丸ごと受け入れる
2歳児くらいになると、何をやっても何を与えても「イヤ!イヤ!」となり、イヤを言うことが世界のすべてという時期もあります(笑)それでも「あなたのこと大好きだよ♡」とわが子を丸ごと受け止めてあげる。親としてはその時期は、本当につらいし苦労するところですよね。そういう時は、園の先生に相談してみてください。園でも同じ状況だと客観的に知ることで、安心して丸ごとわが子を受け入れることができると思います。その子らしさとは、その子が自分で見つけて発揮できることが一番。そのためには、周りの大人がその子を十分認めてあげることが大事じゃないかなと思います。
「その子らしさ」の生かし方
この質問は、すごく難しいですね(笑)
中川信子先生の「ことばのビル」という表があります。ビルを建てるには土台をしっかりと固めることが大事。この「ことばのビル」の最上階には、「ことばを話す力」があります。ビルの土台なしでは、最上階の力を得ることはできません。ビルの土台となる基本的な生活やからだづくり、心を育てる多様な体験がとても大切だということがこの表から見て分かると思います。
中川信子「ことばのビル」より
「一番上を求めるならまずこの土台を大事に育てていきたいですね」と教室にくる保護者にお話しています。そうすると、保護者たちは「早寝早起き朝ごはん、大事なんですね」と再確認します。生活のリズムを整えるだけで子どもの心も落ち着き、周りがよく見えていろんなことをやってみようの好奇心につながります。実はこれって、マズローの欲求5段階説にもつながるなと思いました。
その子らしさの生かし方って、その子が自分で獲得したことを表現することだと思います。そうなると親がやってあげられることって、その子が揺るぎない自信を持って自分を表現できるようにするための土台作り。親がやってあげられるのは、生活の土台作りですね。
これからの時代で必要なこと
今はネット社会。子育てに関する情報があふれて、選択肢がものすごく増えています。自分で考えて選択するだけでも難しいですよね。不安になって調べたい、知りたい気持ちは私も分かります。その情報に振り回され、ネット検索だけで時間を取られ疲弊していくくらいなら、こんなに情報はないほうが本当はシンプルでいいですよね(笑)でも元には戻れないからこそ、いま本当に大事なことはなに?本質はなに?と自分の頭で考えて行動することが大事だと思います。
子育てとか教育は、親の自慢になるとか何かに一番になるとかではなく、その子がその子らしく最後まで人生を謳歌できるように見守っていくことだと思います。情報化社会で世の中は変わっていくけれど、基本は普遍でその子をありのまま愛すること。それに尽きると私は思います。
桜が散るように大変な時代は過ぎる
子育てをしているお母さんたちって、本当に凄い!たっぷり褒めてあげたいです。自分で自分自身をぜひ褒めてあげてくださいね。子育ての気苦労は尽きないですが、その中でも乳幼児期は本当に親としても大変な時期だと思います。今、園庭の桜は満開ですがいつかは散ります。子育ても大変な時期はまさに今(満開)ですが、そんな時期もあっという間に過ぎ去って(散って)いきます。振り返ると「あの頃がよかったなぁ。」「もう一度、赤ちゃんの匂いをかぎたい!」「もう一度抱っこしたい!」と経験した多くの親たちが口にします。その大変な時期にいる親たちからすると、「今、本当に大変なの!」「助けて!」と強く思いますよね。でも、それでも言いたい!(笑)「今しかない、この時期を大事にしてあげて」。
子どもが「見て見て!」と言ったらみてあげて欲しい。しっかりと受け止めてあげると、子ども自身が満足して次に進むことができますからね。
そして、最後に私が一番伝えたいことです。何よりも大事なことは親が機嫌良く、ニコニコ過ごすことだと思います。そのような親のお子さんはやはり、ニコニコして自分のやりたいことをやっています。逆に常に眉間にシワが寄っていってしまう親のお子さんは、やはり機嫌が悪い雰囲気を醸し出しているように感じます。悩みは尽きないと思いますが、一人で抱え込まずに話を聞いてもらえる人や場所を見つけて、親としての自分の気持ちをラクにしてあげて欲しいです。そうすることで肩の力も抜け、子育てを楽しむ気持ちがふくらんでいくと思います。
これからは、子どもたちから教わったことを伝えていく
――「親がやってあげられるのは、生活の土台作り」という言葉が私の中で一番印象に残りました。特別な何かを与えるのではなく、毎日の生活を共に丁寧に機嫌良く過ごす。シンプルだけど、実は子どもの成長にとって欠かせない大事な土台なのだと改めて気付かされました。これからでも遅くないですよね(笑)家族でニコニコと元気に過ごしたいと思います!ありがとうございました(相田)
沖壽美代(おきすみよ)
名古屋市教育委員会「幼児の育ち応援ルーム」ことばの指導推進員
名古屋市立幼稚園を永年勤務し、園長で定年退職する。現在は、名古屋市教育委員会「幼児の育ち応援ルーム」ことばの指導推進員として、幼児や保護者にことばの発達の悩みに寄り添い、私らしさを発揮しながら精進中。