名古屋市東区にある名古屋市立第一幼稚園。ここは明治25年に開園され、創立128年の名古屋で一番歴史ある幼稚園。時代とともに園舎や子どもたちが遊ぶ環境を整えながら、多くの子どもたちが育っていく姿を見守っています。また、こちらの園は久屋大通公園に面しており、周囲には商業施設や高層ビルも。そのような環境の中、子どもたちはどのように過ごしているのかを取材してきました。
環境を通して行う教育
名古屋の都心という立地ですが、目の前に久屋大通公園が広がるだけでなく、園自体も多くの木々に花や菜園とたくさんの自然に囲まれています。また、柿・サクランボ・ブドウ・ブルーベリー・夏みかん・ゆすら梅と実のなる木も多く、子どもたちは目で楽しみ、収穫で味わいながら四季を感じることができます。また、広い園庭は土に触れることができ、数多くの遊具とともに街中とは思えないほどの豊かな環境にバッタや赤トンボなどの生き物も集まるそうです。
名古屋市の幼稚園の教育目標である「環境を通して行う教育」も豊かな環境で行われています。こちらは子どもたちが自ら環境に関わって遊ぶ中で、幼児期に育てていきたい必要な力や情緒を育てることに繋がっているそうです。その主体性(自主性)を育てていけるように先生方はひとりひとりの興味や関心、発達などに応じて、「こんな経験ができるといいな」と考え、環境を整えているそう。だた、それを強制ではなく、子どもたちが自由に選び、体験していくことこそが主体性を育てていく場にしています。子どもたちはあそびを通していろんな発見をし、それが学びへと繋がっているとのことでした。
自然とあそぶ、自然で学ぶ
たくさんの自然環境にふれあえる環境にあるため、子どもたちもその中で工夫したあそびをしています。…とはいえ、子どもたちの中には虫が苦手な子も。興味はあるけど、触るのは怖い気持ちを持っている子には先生や大きな学年の子どもたちが関わることで少しずつ壁を低くし、観察したりふれたりする楽しみへと広がりをもっているそうです。
園庭の土遊びでは、ひとりの子どもが土に埋まっていた石を見つけたのですが、それを「栗」と思ったそう。最初見つけた子どもはそのうち飽きたのか他のあそびへと変わっていったのですが、その様子をみていた別の子どもが「自分がその栗を掘り出したい」と思い、試行錯誤。最初はそばに落ちていた葉っぱを使って。それでは掘り出せないとわかると石を持ってきました。小さい石から始まり、次々に大きな石に。園内の隅々まで石を探しはじめ、お昼の時間を挟んで、その後も〈栗の掘り出し作業〉へ。結局その日はほぼ一日中、そのあそびを一人黙々としていたそうです。一日かけてのあそびでしたがその日は取れないままに終わったとのこと。一見そのあそびしかしていないように映りますが、その子は粘り強くひとつのことに向き合う力(集中力)、どこにどんな石が落ちているのかを見つける力(観察力)、どうしたら「栗」を掘り出せるのかと考える力(思考力)など、様々な力を鍛えていったのだと思います。そんな一日をその子を思い、様子を見ながら陰で見守っていた先生方がいるからこそ、その子にとって楽しい一日を過ごせたのだと思いました。
小さな頃の学びは自然の中から、そして自らが見つけて楽しみながら行うことであそぶが学びへと結びついていくのだと感じました。その体験がのちに子どもたちの成長の糧となり、子どもたちの将来を支える指針のひとつになっていくことを願っているそうです。
できない時期だからこそ楽しさを伝える
今年はコロナの影響でこれまで通りに園生活を行えないことが多かったのですが、これまで地下鉄で行っていた遠足をバスに変更することで少しでも安心感を持たせて。年少・年中は動物園、年長は水族館へと例年通りの場所に行くことができました。また、運動会は年齢毎の時間差での開催。いつも通りのようにはいかなかったのは残念でしたが、この時期に経験させたいものや、保護者に観てもらうことが子どもの意欲に繋がるものなどを厳選しての運動会を執り行えたそうです。また、11月には屋上にビオトープが完成されました。その周りには日本古来の草木が植えられ、これまで以上に様々な虫たちに出会える楽しみが増えることでしょう。園生活最後の年を例年通りに過ごせなかった年長の子どもたちにはその植樹式の際、花壇にすみれの苗を二人で一株ずつ植えたそうです。〈違う形でも子どもたちに豊かな経験をさせてあげたい〉と思われた先生方の愛を感じました。
楽しみながらのソーシャルディスタンス
これまで以上に衛生面に気を配っている幼稚園。それでも子どもたちはつい密になりがちだからこそ、様々な工夫も凝らしています。園庭あそびでは外のベンチに動物のお尻マークを付けたり、トイレの順番待ちでは廊下に動物の足跡マークを付けたり。どんな動物なのかクイズ形式にもしながら距離感がとられている場所に楽しくいけるようにしていました。離れて座るように促すのではなく、そこに行ってみたいという楽しい気持ちにさせながらのソーシャルディスタンス。体の距離が心の距離もつながってしまいがちだからこその楽しいアイデアです。
つながりをもつことの大切さ
降園後の園庭開放も園の再開当初はなしとしていましたが、現在は30分間の園庭開放をしています。そこには保育の相談ができることで安心感を得られる保護者だけでなく、先生方も子どもたちの様子を伝える場となり、双方ともに園と家庭の連携ができる大切さを感じているようです。
池田園長は、「あそびは学び。子どもたちは‘やってみたい’と思う気持ちから育っていきます。些細なことでも様々な学びを付けていきます。その小さな変化に気付き、保育者としてその子の学びを確かなものになるように支えていくのが私たちの仕事です。そして子どもたちの成長とともに、お母さんたちが孤独にならないように、幼稚園がその支えとなる場となれるように。僅かなことでいいから頼ってほしいです。」と話されていました。
伸び伸びと育てることは自由の中から自ら選択し、創造の芽を育てていく一歩になる。それこそが「学びの一歩」となることを第一幼稚園の豊かな環境を通して感じることができました。