「ism」とは「主張」のこと。その人が生きてきた中で感じた人生観や学びを編集長 相田が対談形式でお伺いするコーナー。様々な分野で活躍される方だからこそ多様な考え方を聞くことができます。
和⽥イズムとは「⼦どもがやることには、必ず意味があるし、理由がある。」
4 年前に退職し、現在は⼤学や短⼤、専⾨学校にて講師をされている和⽥さん。40 年もの幼稚園教諭時代は、とにかく⼦どもにハマったとのこと。その理由を聞いてみました。
子どもって興味深くって魅力に尽きない!
今の⾔葉で「沼ハマ」ってありますよね。私は⼦どもたちに「ハマ」ったのだと思います。⼦どもの⾏動の意味って、⾒た⽬にはわからないことが多いんです。その⼦どもの行動の意味を分かりたいと思い、⼀緒に⽣活することでハマりましたね。たった3 年から5 年くらいしか⽣きていないのに、その⽣活で経験したこと、感じたことをすべて駆使して⾏動する。その⾏動の理由が分かった時、⼦どもって本当に尊いなと感じるんです。⼤⼈には理解しがたいことや、理屈が通らないようなことも、⼦どもにとっては意味があるし、理由があるのです。
子どもは自分で考えて獲得していく
1 ⽉に⽻⼦板を出した時のこと。ある⼦がその⽻⼦板と紙を持ってきました。そして私に「描いて。」と⾔ってきたのです。「このお姉さんを描くの?」と聞くと、「うん。」とひとこと。なんだろうなと思いながら、あの昭和レトロな絵を描きました。その間、かなり真剣にそばで⾒ているので、よっぽどの思いがあるのだと思い、私も真剣に似せて描きました。描き終えて「これでいいの?」と聞いたら、「いい。」とうなずく。私が描いた絵をその⼦は、しげしげと眺めているので「このお姉さん、好き?」と聞くと、にっこりして「かわいい。」と⾔ったのです。
その⼦は、昭和レトロなお姉さんの絵が気に⼊ったんですね。⽻⼦板は、園のもの。持って帰ることができないですよね。⾃分のものにはできないから、私に描いてもらえればその絵は⾃分のもの。それを⼀⽣懸命その⼦なりに考えたのだと思うと、本 当にすごいなと思います。⼦どもって、⾃分でいろいろ考えながら獲得していく。それがわかると、またハマってしまうのです。
抱っこはゲップが出るまで
幼児期は<⼼許した⼤⼈から愛情をたくさんかけてもらい、機嫌よく楽しく幸せに過ごすこと>が⼤事だと思います。そうすることによって、愛されている安心感が持てます。この「自分は愛されているんだ」という安心感で、⼼も体も健やかに育っていくと思います。⼦どもにとって思い通りにならないことや納得のいかないことがあったとしても、大好きな大人に愛されている安心感があれば乗り越えていけるし、⾃分の中で気持ちを切り替えることができるのではないかと思います。
先輩の先⽣たちの教えで「抱っこはゲップが出るまで」と教えていただきました。⼦どもが「もう満足。」「ごちそうさま!」とゲップが出るまでは、抱っこをしようねということ。子どもから「ごちそうさま」するまでは、ためらわず抱っこをしたいですね。
シンプルな日常を大事に、そして丁寧に
⽣活リズムはとても⼤事な部分だと考えています。「早寝・早起き・朝ごはん」 と昔よく⾔われましたよね。そういうことが⼦育てなのではないでしょうか。ど こかに連れて⾏ったり、楽しいイベントをするとかワクワクも⼤事だけれど、幼児期は⾃⽴へ向かう⼀番⼤切な時期。⽣活⾯を整えてあげることがまずは必要だと私は思います。起こしてー⾷べさせてー着せてーお⾵呂に⼊れてー寝かせてなど。シンプルなことだけど、毎⽇必ずやることを丁寧にやる。乳幼児期の「愛情かけて」とは、「⼿をかける」ことにつながりますよね。こういうシンプルな⼦育てをされている親御さんのお⼦さんは、情緒が安定していると思います。情緒が安定していると、積極的に⾃分で動いて、⾏動を取ることができます。情緒が不安定だと、誰かのそばにいなくては心配で、動き出せないこともあります。その元になるのは、やはり⽣活習慣だったり、⽣活のリズムなのではないかと思います。
時間が上手に使える子
時間が上⼿に使える⼦というのは、やはり⽣活リズムが整っています。ご飯やお⾵呂、寝る時間などが決まっていたら、その空いてる時間を⾃分で好きに使うことができます。それを⼤⼈の都合で帰りが遅くなったり、ご飯の時間も⽇によって違うとお腹を空かせて待たせることになる。そういう⽣活が続くと、⼦どもが⾃分で決めた⽣活ができなくなります。中学校、高校とだんだん親の手を離れて行くとき、自分で時間を上手にやりくりできる子になって欲しいですね。⼦育ては⼤変だし、⽣活リズムを整えることはかんたんなことではないけれど、意識するだけでも違うのではないかと思います。
子どもの20年後を思い描いて、今何をすべきかを考える
今は、働くお⺟さまも多いです。お⺟さまが働くことは⼤賛成。ただ⼦育てと仕事を両⽴させることは本当に⼤変。⽬の前の忙しさで⽇々を過ごしてしまいがちですが、何が⼤事かをいつも⼼の⽚隅に置いてフラットに戻れることが⼤切 だと思います。20 年後の⼦どもの⽣活を思い描いた時に、⼤⼈として社会⼈として、どうなっていてほしいか。そう考えると、⽣活時間のこと、お⾦のこと、お友だちとの関わり⽅など、今どうすればいいのか考えやすくなると思います。
モアベターはたくさんあるが、ベストはない
家庭は⼩さな社会。家庭では、折り合いの付け⽅を学んでいけたらいいと思います。いろいろと⼦育てで思うことはあると思いますが、教育法は⼀つではありません。モアベターはたくさんありますが、ベストはないですね。お家でできないことを園でやる。幼児教育施設は、その⼦たちのためにある環境ですから。
これからは、子どもたちから教わったことを伝えていく
最初にお話しましたが、私は⼦どもの魅⼒にハマっています。その⼦どもの魅⼒で気づいたところや、⾒えにくいところ、⼦どもから教えてもらったことを先⽣⽅や学⽣さんたちに伝えていきたいと思っています。担任の先⽣たちが⾒えて いなかったところが⾒えることによって、⼦どもの理解につながります。そうすることで、先⽣⽅の⾏動や声かけが変わります。そして、その親御さんにも伝えやすくなり、助けの材料になると思っています。
和⽥直⼦(わだなおこ)
岡崎⼥⼦⼤学・短期⼤学/名古屋芸術⼤学/名古屋芸術⼤学/保育専⾨学校(令和3年度からは、名古屋文化学園保育専⾨学校に勤務予定)⾮常勤講師
名古屋市⽴幼稚園勤務40 年。定年後も、新規採⽤者指導員、幼児教育アドバイザーとして、引き続き⼦どもたちに関わる。また、保育者養成⼤学等で、保育者を⽬指す学⽣に、⼦どもと幼児教育のすばらしさを伝えている。